最近外国人のお客様が増えてきた。あるいは、初めて免税での販売を求められた。
そんな経験をされているお店の経営者様も多いのではないでしょうか?
近年、訪日外国人数は急激な勢いで増加しています。
以下、その年別の推移を表したものです。
これに伴い、街中の小売店で買い物をされる外国人のお客様もだんだんと増えてきています。特に、中国・台湾・韓国・香港からの訪日数が非常に多く、大部分が中華圏・韓国からのお客様であることが分かります。
このような、中華圏を中心とした外国からのお客様が増えている現状があります。
そして、この状況下で急激にニーズが高まっているのが免税販売です。
空港だけでなく、街中の小売店でも免税店となり、多くのインバウンド需要(外国人需要)を獲得して売上急増を果たす店舗が増えています。
管理人も実際に免税許可の取得、かつキャッシュレス決済への対応を行うことにより店舗売上を150%以上に増加させた経験があります。
この記事では、このような成長分野である免税店について、その基本から申請・販売方法まで詳しくまとめています。
免税店の申請に興味がある、外国人のお客様が多いという店舗の方はぜひ参考にしてみて下さい。
免税店とは
免税店は税金が免除になるお店
免税店とは、訪日外国人に対して特定の物品を消費税免除で販売できる店舗のことです。消費税法では「輸出物品販売場」と呼ばれるものになります。
外国人旅行者などに免税での販売を行う場合は、お客様からパスポートを提示してもらった上で所定の手続きをレジ上で行うことにより免税販売をすることができます。この販売方法については後ほど詳しくご説明いたします。
また、免税店は以下のようなシンボルマークの掲載が許可され、外国人のお客様はこのロゴをみて免税販売をしている店だと認識し来店してくれます。
さらに、観光庁のホームページでは免税店として登録された店舗を検索できるページを設けており、外国人観光客から検索してお店を見つけてもらうことができるようになります。
さすが、観光産業に力を入れているだけありますね!
空港型と市中型の2種類ある
免税店には以下の2種類があります。
- 空港型免税店(Duty Free Shop):消費税および酒税・たばこ税・関税を免除
- 市中型免税店(Tax Free Shop):消費税のみ免除
よくDuty Free(ドューティーフリー)とTax Free(タックスフリー)を混同してしまうケースが見受けられますが、この2つには上記のように免除される税金の違いがあります。
空港型免税はよく海外への出国の際に目にする免税店です。免税店といえばこちらを想像する方も多いのではないでしょうか。
この空港型免税店は出国ゲートをくぐった後に商品を購入あるいは受け取りするタイプを指し、消費税に加えて酒税・たばこ税・関税も免除されるので訪日外国人からすると最もお得に買い物ができるお店となります。
一方で、市中型免税店は空港以外の街中で商品を購入してその場で受け取るタイプを指します。こちらは消費税のみが免除されるものになります。
この記事の読者の方を含め、一般的に免税の許可をとるという場合はこちらの市中免税の許可をとることを意味します。
一見空港型に比べてメリットが少ないように思える市中型ですが、実は豊富な品揃えや在庫数といった強みを持っており、多くの訪日外国人のお客様が利用しています。
さらに、空港型はトランクなどの大きい荷物を航空会社に預け、出国ゲートをくぐった後に利用できる店舗です。したがって、両手に持てる量しか買えず、バイヤーによる大量の買い付けやお土産の爆買いには向いていません。この点、市中型免税に大きなチャンスがあるわけです。
2020年の東京オリンピックも見据えると、免税販売はインバウンド需要の大きいエリア・店舗で積極的に利用したいものとなっています。
対象者
免税販売の対象となる人は「非居住者」となっています。
「非居住者」は外国人だけでなく、日本人であっても一定の条件を満たす者は、非居住者に該当します。
以下、観光庁のページより引用の対象者の考え方です。
左側に該当するお客様に対しては免税販売が可能ですので、迷ったらこちらの表で確認しましょう。
対象商品
免税店で販売できる商品は以下の2種類に区分されており、それぞれ販売の条件が異なります。
- 一般物品:家電やアパレル用品、民芸品など
- 消耗品:食品や化粧品、医薬品など
2種類のイメージは以下の通りです。
一般物品の場合は以下の販売条件があります。
- 1店舗あたり1日で販売合計金額5,000円以上/人が免税対象
- 販売合計金額が100万円を超える場合は店舗で購入者のパスポート控えを保管
比較的金額が大きくなりやすいのが一般物品になります。特に中国人観光客の経済力は非常に強く、100万円以上の買い物はよくあることなので②の条件には気をつけましょう。
消耗品の場合は同じく条件が以下の通りあります。
- 1店舗あたり1日で販売合計金額5,000円〜50万円/人が免税対象
- 購入者が購入から30日以内に商品を輸出(出国)する予定であること
- 指定の包装を行うこと
こちらは1日1店舗1人あたり最大50万円という上限があるのが特徴です。管理人も消費財を中心に免税販売を行なっていた経験がありますが、中国人の大口のお客様などはあらかじめ大量にご発注いただき数日に分けて50万円ずつ購入されるという方もいらっしゃいました。
免税店のかんたん申請手続きのやり方
どこに申請するの?
免税店として免税販売を行なっていきたいという店舗のオーナーは、納税地の所轄税務署に申請を行います。
複数店舗を経営されている場合は一括で申請ができますが、申請自体は店舗ごとに行う必要があります。例えば東京と大阪に2店舗ずつ計4店舗のお店を展開するオーナーの場合は、東京の所轄税務署に2店舗分、大阪の所轄税務署に2店舗分の申請を出すことになります。
所轄の税務署が分からないときは、こちらの「国税庁HP 税務署の所在地などを知りたい方」より郵便番号を入力して検索しましょう。
また、申請に関して不明なことや相談したいことがある場合は観光庁や地方運輸局の相談窓口に連絡するとよいでしょう。専門の局員が情報を提供してくれます。
何を申請すればよい?
申請に必要なものは以下の通りです。
- 輸出物品販売場許可申請書(一般型用)
⇒ダウンロードはこちら - お店の見取図
- 社内の免税販売マニュアル
- 申請者の事業内容がわかるもの(会社案内やホームページ)
- お店の取扱商品一覧
①は免税店としての申請書、②〜⑤は参考書類として提出が求められるものになります。
①は所定のものをダウンロードして記入して下さい。②〜⑤は申請者が独自に用意したもので大丈夫です。
実際に申請をされる際は、念のためこちらの提出書類チェックシートで添付書類の抜け漏れがないか確認されて下さい。
どんな審査がある?
無事に申請が完了すると、審査を経て晴れて免税店となります。
それでは一体どんな審査を行なっているのでしょうか。
審査は、消費税法に定められる以下の条項【1】〜【3】を満たしているかどうかが中心にみられます。
【1】次のイ及びロの要件を満たす事業者(消費税の課税事業者(※)に限る。)が経営する販売場であること。
イ:現に国税の滞納(その滞納額の徴収が著しく困難であるものに限る。)がないこ と。
ロ:輸出物品現に国税の滞納(その滞納額の徴収が著しく困難であるものに限る。)がないこと。【2】現に非居住者の利用する場所又は非居住者の利用が見込まれる場所に所在する販売場であること。
【3】免税販売手続に必要な人員を配置し、かつ、免税販売手続を行うための設備を有する販売場であること。
(※)その課税期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者で、免税事業者に該当する者は、課税選択の手続きを行うことで課税事業者となることが出来る。
色々と書いてありますが、審査に向けて何か特別なことをするという必要はありません。
特に、【3】の免税販売手続きに必要な人員という点ですが、こちらは外国語話者を用意する必要はありません。外語人に対応するための簡単な多言語接客シートなどがあれば十分です。同じく免税販売手続きを行うための設備という表記に関しても、普段使っているカウンターがあればそちらでOKです。
免税販売のやり方
準備①:多言語説明シートを用意しよう
晴れて免税店となったらさっそく販売に向けた準備をしていきましょう。準備はすぐ終わるので、さっとやってしまいましょう。
まず必要なものが多言語説明シートです。多言語説明シートは、外国人旅行者向けに免税販売の流れを分かりやすく説明するためのシートです。
以下のようなもになります。
視覚的にも非常に分かりやすくて、このシートがあれば免税販売に困ることも少なそうですね!
多言語説明シートは、観光庁HP「免税店になったら」のページよりダウンロードできます。英語・中国語・韓国語・タイ語・インドネシア語・ベトナム語が用意されているので客層に応じて印刷しておきましょう。
準備②:購入記録票と購入者誓約書を用意しよう
実際に免税販売手続きを行う際は、お客様と以下2点の書類取り交わしが必要になります。
こちらもあらかじめ用意しておきましょう。
- 購入記録票:購入内容を記録するもの
- 購入者誓約書:購入者が免税購入商品を30日以内に日本から輸出する旨を誓約するもの
以下、観光庁が紹介しているサンプルになります。
実は、それぞれ記載項目の指定はありますが書式の指定はありません。したがって、自分で作成するか他で調達する必要がありますが、管理人のおすすめは下の日本法令が販売している購入記録票と購入者誓約書が複写になったシートです。
これならば1度の記入で両方のシートを完成できて便利です。ちなみに下のタイプは1冊30組の内容となっています。
準備③:消耗品の包装について確認しよう
免税販売を行なった際、指定の方法で商品の包装を行います。免税販売では袋あるいは箱による包装が認められています。それぞれ、以下のような包装条件がありますのでご注意下さい。
- 袋包装の場合:無色透明なプラスチック製で十分な強度があること
- 箱包装の場合:ダンボール製・発泡スチロール製等の十分な強度があり、品名・数量の記載が側面にあること
- 共通項目①:開封した際に開封したことが分かるシールで封印すること
- 共通項目②:出国まで開封しないよう日本語および外国語で注意喚起すること
下のイラストのようなイメージになります。基本的に上記ルールを満たすものであればどんな包装でもかまいません。
免税袋は楽天やアマゾンで専用のものが販売されています。以下、リンクを載せておきますので調達の際はご利用下さい。
包装は日常的に使うものになりますので、できるだけお店にストックしておきましょう。
ここまで揃えることができたら実際に免税販売を行うことができます。
以下、免税販売をかんたんな3ステップに分けてご説明していきます。
免税販売の手順:かんたん3ステップ
それでは、実際に免税販売を行う際の流れをご説明いたします。
以下の3ステップです。
- お客様にパスポートをご提示頂く
- 購入記録票・購入者誓約書を作成する
- 会計・包装して商品をお渡しする
免税販売は以上3ステップで誰にでもかんたんに実施できます。
各ステップについて、少し詳しくみていきましょう。
①お客様にパスポートをご提示頂く
まずは、お客様にパスポートを見せてもらい免税販売の対象である「非居住者」であることを確認しましょう。「非居住者」の確認方法は上の『対象者』の項目でご説明しています。不明な方はご確認下さい。
また、パスポートの上陸許可証印を確認し在留資格の有無も合わせて確認して下さい。
上陸許可証印は下のようなもので、日本入国の際にパスポートにハンコ印として押されます。
実際に販売する際は「パスポート?」と問いかけると国籍に関わらずたいていは伝わります。なかなか伝わらない場合は多言語説明シートを見せて対応しましょう。
なお、パスポートを提示して頂いたら以下の内容をチェックしていきます。
- 旅券番号
- 氏名
- 国籍
- 生年月日
- 上陸年月日
- 在留資格
これらを、購入記録票・購入誓約書に記載していくことになります。
②購入記録票・購入者誓約書を作成する
お客様からパスポートの提示を受けたら購入記録票と購入者誓約書を作成します。
上記、パスポート提示の際にチェックした内容を購入記録票と購入者誓約書が複写になったものに書いていきます。(複写シートは上でご紹介した日本法令のものを使います)
作成の手順は以下の通りです。
- 購入記録票の各項目を記入
- 複写シートになっている購入者誓約書にお客様サインを記入
- 購入記録票をお客様のパスポートに貼付し割印
- 購入者誓約書をお店で保管(約7年)
初めは少し面倒に感じますが、慣れると2、3分でこれらの作業を完了できるようになります。まずは、しっかり上記手順を踏んで免税書類の作成に慣れましょう。
③会計・包装して商品をお渡しする
免税書類を作成したら会計を行い(税抜きの金額を収受)、商品に指定の包装をしてお客様にお渡しします。
免税販売においては袋あるいは箱による包装が認められており、『準備③:消耗品の包装について確認しよう』でご紹介した条件をクリアしている必要があります。ご確認の上、適切な包装を実施して下さい。
以上の3ステップで免税販売は完了です!
思ったよりも簡単に感じたのではないでしょうか?
免税店になるメリット
外国人観光客の集客力をアップできる
免税店になるメリットの1つは、外国人観光客の集客を狙える点です。
例えば、私がとある小売店(酒を中心とした消費財を扱う店舗)で免税販売を導入した際は導入後半年で外国人客数が約3倍に増加しました。その内訳の多くが中国からのお客様でした。
これは免税店としての機能を得たほか、大衆点評のような中国最大の口コミサイトへの登録を通して実現することができました。これは背景として、自分と同じ個人からの口コミや商品紹介を購買の決め手にする傾向・文化が中国人の特性としてあることが影響しています。
これは上手くいった例ですが、少なくとも免税許可を取ることで生じるマイナス要素はありません。少しでもチャンスを広げるという意味で免税販売許可の取得はおすすめできます。
外国人バイヤーからの大量受注が期待できる
外国人需要、インバウンド需要と聞くとどんなお客様を想像されますか?
多くの方は観光などで訪日された外国人観光客を思い浮かべると思います。
しかし、実は店舗の売上という意味で最も大切になってくるのは外国人バイヤーといかに繋がるかということなのです。私の経験上、免税店となることによる一番大きなメリットはこの外国人バイヤーからの大量受注をもらい売上を増大させることです。
中でも中国人バイヤーの購買力は絶大です。彼らはWeChat(日本でいうLINE)やWeibo(中国版Twitter)で多くの個人顧客と繋がっています。100人〜1,000人規模で顧客を抱えるバイヤーも多くいらっしゃいます。その顧客から頼まれた商品を代理で購入し、粗利をつけて引き渡すわけです。これは代理購買といわれる中国人インバウンド需要を考える際に注視すべきお客様の行動特性です。
私は彼らと繋がることで化粧品や酒類のロット発注を頂き、1回で3,000万円分近くの受注をした時もありました。こうなってくると面白いように利益が生まれます。
私が中国人バイヤーと取引してきた中でも、特に需要の高かったカテゴリは以下のようになります。これらを取り扱う店舗はチャンスが大きいと思います。
- 化粧品
- 酒類
- たばこ
- 医薬品
- 腕時計
- 子ども用品
上記以外にも、インスタント食品や菓子類など商品ごとに見ていくと大量受注が狙えるものは数多く存在するので自分なりの売筋商品を見出してみて下さい。
国内不況時の収益源になる
免税販売は売上がある程度安定してくると、国内不況時の収益源として期待できるようになります。
増税などによる商品値上げで日本人客の購買単価が下がったとしても、免税で買い物のできる外国人客の購買売上が経営を下支えしてくれます。
管理人が携わった小売店の例で言うと、昨今の国産ウイスキー高騰により日本のお客様によるウイスキー購入頻度が極端に低下する問題を抱えていました。そこに、免税販売を導入することで中国人や台湾人、韓国人の観光客の方からの国産ウイスキー購入額が増え、最終的にはトータル販売額で昨年対比で250%以上のカテゴリ伸長を実現することができました。
このように、免税店になることで収益ポートフォリオを分散させ、安定した経営を実現できるというメリットがあります。
免税店になるデメリット
免税販売時の手続きに時間がかかる
免税販売によるデメリットの1つに免税販売の手続きに時間がかかる点があげられます。
通常の商品販売やサービス提供では、決済と商品提供のみなので一瞬で終わりますよね。しかし、免税販売では購入記録票・購入者誓約書の記入や特定の包装を行う必要があります。
この間、不慣れなうちは5分以上、慣れていても3分程度の時間が1決済ごとに必要になります。免税店になるときは、このオペレーションコストを考慮しなければいけません。
確かに、時間的コストのかかる免税販売ですがその分効果が大きいのも事実です。
この時間的コストを最小限にするためにも、上の『免税販売のやり方』でご紹介した準備①〜③をしっかり行いましょう。これにより、費用対効果の高い免税販売ができるかと思います。
多言語に対応できる必要がある ※話せる必要はない!
免税販売を行う上でのもう1つの注意点が、多言語への対応が必要となる点です。
免税店として成功するために避けて通れないのがこの言語の壁です。普段外国人と触れ合う機会がない方はここが一番不安だったりしますよね。
でも大丈夫です。基本的にお客様は商品やサービスを買いたくて私たちとコミュニケーションを取ります。私の経験上、実際には向こうからスマホの翻訳アプリを差し出してくれたり、簡易な日本語・英語で話してくれることが多いです。
また、観光庁の出している多言語チェックシートや、近年ブームとなっているPOCKETALK(ポケトーク)のような最先端の翻訳機を利用することでコミュニケーションは案外できてしまいます。
私も初めは外国人の方とのコミュニケーションを不安に感じていました。しかし後から気付かされたのは、日本に来る外国人観光客やバイヤーの方は総じて親切で礼儀正しい人たちだということです。マナーが悪いと感じるようなことがあったとしても、それは単なる文化の違いであったりします。こういった文化の違いを感じ、受け入れ、対応できるようになるということは自分の中でも大きな成長になりますし、人生の糧になるような経験となってくれます。ぜひ、積極的にチャレンジしてみることをおすすめいたします!
まとめ
以上、免税店になる方法やそのメリット・デメリットについて詳しくまとめさせて頂きました。
いかがでしたか?
「免税店についてよくわかった!」
「これなら免税販売に挑戦してみてもいいかもしれない」
そのように感じて頂けたなら幸いです。
冒頭でもご説明したように、今後の日本における観光産業の成長は大きいものと期待されます。政府も資金を投入してバックアップしている分野なので、このチャンスをぜひ捉えて店舗や会社の売上向上に繋げてみて下さい。
また、外国人需要を取り込む際にはキャッシュレス決済の導入が必要不可欠です。なぜなら、海外のキャッシュレス決済比率は非常に高水準になっているためです(中国:約80%、韓国:約96%、イギリス:約69%)。ぜひ、免税店申請と合わせてキャッシュレス決済の導入も検討しましょう。以下の記事で解説していますのでご参照下さい。